証跡とは? 管理の目的や重要性、効率化の方法を解説
証跡管理は、企業の業務やITシステムが適正に運用されていることの証明、不正の防止、リスク管理に欠かせない重要な取り組みです。特に近年はテレワークの普及や電子帳簿保存法の改正により、その重要性がますます高まっています。
本記事では、証跡を管理する目的や重要性、効率化の方法などを解説します。
証跡とは、業務プロセスやITシステムの処理がルールに沿って行われているかを示す記録
証跡とは、「証拠となる痕跡」を意味し、業務プロセスやITシステムの処理がルールに沿って行われているかを示す記録のことです。例えば、従業員のパソコンなどの操作ログ、システム上の承認履歴、処理の実行結果などがこれにあたります。
これらの証跡は、業務が適正に行われていることを裏づけるものであり、不正防止や内部統制の強化、さらには外部監査への対応で重要な役割を果たします。
また、証跡は特定の取引や処理だけでなく、業務全般に関わる幅広い記録を指す点に注意が必要です。そのため、証跡を管理する際は、適切な範囲を定め、包括的に管理することが求められます。
証跡と証憑の違い
証跡と混同されやすい言葉として、証憑(しょうひょう)が挙げられます。両者はいずれも業務の正当性を証明するための情報ですが、その範囲と役割には明確な違いがあります。
証憑とは、取引の成立を証明するための書類やデータのことです。代表的な例として、契約書・請求書・領収書などが挙げられます。これらは会計処理や税務対応などにおいて必須となる記録です。
一方、証跡は業務全般の適正性を示す記録であり、証憑よりも広い概念といえます。システム上の操作ログや承認履歴、アクセス記録なども証跡に含まれます。つまり、証憑は証跡の一部にすぎず、証跡のほうが管理対象として広範囲をカバーしているのです。
この違いを理解しておくことで、社内の様々な記録をどのように保存・管理すべきかを適切に判断できるようになります。
証跡管理の目的
証跡管理は、単に記録を保存するだけでなく、企業経営や内部統制の基盤として重要な役割を担います。証跡管理の主な目的としては、下記3点が挙げられます。
| 目的 | 概要 |
|---|---|
| 不正防止とリスク管理 | 不正行為を抑止し、万一発生した場合も迅速な検知・原因究明を可能にする |
| 上場企業に必要な内部統制とガバナンス強化 | 上場企業や上場準備企業に必須となる、健全な経営や法令遵守に寄与する |
| 監査への対応 | 会計監査やシステム監査で必要な証跡を整備し、負担軽減と信頼性向上につなげる |
不正防止とリスク管理
証跡管理は、従業員による内部不正や外部からの不正アクセスなどによるセキュリティインシデントの抑止・検知に役立ちます。
操作履歴やシステム処理の記録を残すことで、社内では内部不正が行われにくい環境を作り、業務の透明性を確保することが可能です。また、万が一内部不正やセキュリティインシデントが発生した場合でも、証跡があれば迅速に事実関係を確認し、原因を特定できます。結果として、リスク管理の強化につながります。
上場企業に必要な内部統制とガバナンス強化
証跡管理は、内部統制を確立し、企業のガバナンスを強化する上でも欠かせない取り組みです。特に、上場企業や上場準備中の企業にとっては、J-SOX法などの法令に対応するために必須の要素となります。
J-SOX法とは、財務報告の信頼性を確保するための内部統制報告制度のことで、企業は業務プロセスが適切に行われていることを株主などの利害関係者に報告する必要があります。その際に、業務の流れや承認プロセスを裏づける証跡が重要となるため、適切な証跡管理が求められるのです。
適切に証跡を管理することで、経営上のリスクの低減や投資家からの信頼獲得にもつながります。
監査への対応
証跡の管理は、会計監査などの監査対応の際も必要になります。「誰が」「いつ」「何をしたか」が時系列で示されている情報は、監査を効率化するために重要です。
監査のために証跡を管理しておけば、監査対応にかかる負担を軽減できる上に、企業活動の透明性の確保にも効果的です。
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証跡管理が重要な理由
証跡管理は、不正防止や内部統制だけでなく、社会環境や法制度の変化にも対応するために重要性が増しています。近年、証跡管理の重要性が増している理由の代表例は、以下の3点です。
| 理由 | 概要 |
|---|---|
| IT化の進展とサイバーセキュリティリスクの増大 | DX推進やシステム利用拡大により、不正の検知・原因分析のための証跡活用が不可欠になった |
| テレワークの普及 | 従業員行動の把握が難しくなるため、利用履歴や操作ログの管理が重要になっている |
| 電子帳簿保存法の改正 | 取引でやりとりした電子データの保存が原則化され、改ざん防止やアクセス履歴の管理が必須になった |
IT化の進展とサイバーセキュリティリスクの増大
証跡管理が重要になった理由として、IT化の進展とサイバーセキュリティリスクの増大が挙げられます。
DXの推進に伴い、企業活動におけるITシステムの利用は急速に拡大しています。それに比例して、サイバー攻撃や内部不正のリスクも高まっているため、証跡を活用した不正の検知やインシデント発生時の原因分析が欠かせません。
攻撃の高度化や巧妙化が進む現在では、証跡が重要な役割を果たすケースも少なくないため、企業の信頼性を維持する上で証跡管理は重要といえます。
テレワークの普及
テレワークの普及も、証跡管理が必要になった理由の1つです。
テレワーク環境では、従業員の勤務状況や業務の遂行状況を従来のように直接職場で確認することは困難です。そのため、操作ログやアクセス記録などの証跡を管理し、セキュリティリスクの検知や労務管理に活用する必要があります。
電子帳簿保存法の改正
電子帳簿保存法の改正も、証跡管理が重要になった理由の1つといえます。
2022年の改正により、請求書や領収書、注文書などを電子データでやりとりした場合は電子データのまま保存することが原則となりました。加えて、電子データで取引内容を保存する際には、データの改ざん防止やアクセス履歴の管理といった体制を整備しなければなりません。そのため、電子取引のデータに関する証跡の管理が必須になっているのです。
法令対応を怠れば、監査や税務調査で指摘を受ける可能性があるため、証跡管理の徹底はコンプライアンスの観点からも不可欠となっています。
証跡管理を実施する際のポイント
証跡管理を実施するには、単に記録を残すだけでなく、効率的かつ安全に運用するための仕組みが必要です。証跡管理の際は、以下4点のようなポイントを押さえて効率的に運用するのがお勧めです。
| ポイント | 概要 |
|---|---|
| ログ収集と保存の自動化 | システムログや操作履歴を自動収集し、改ざん防止を施した上で安全に保存する |
| 社内ルールの策定と周知 | 管理対象・保存期間・アクセス権限を明文化し、従業員への周知と定期的な見直しを行う |
| 文書管理のデジタル化の推進 | 紙の文書を電子化し、アクセス履歴の管理や改ざんの防止を実現。検索性や管理精度の向上につながる |
| ITツールの活用 | 証跡の一元管理や検索、レポート自動生成、異常検知などで監査対応を効率化する |
ログ収集と保存の自動化
証跡管理では、システムやアプリケーションのログ、従業員の操作履歴を自動的に収集し、改ざん防止措置を施して安全に保存できる仕組みを構築するのが重要です。ログの重要度に応じた保存期間の設定もできるようにしておきましょう。定期的な証跡の確認を、管理業務のフローに組み込むことも必要です。
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社内ルールの策定と周知
証跡管理を有効に機能させるには、管理対象となる証跡の範囲や保存期間、アクセス権限などを明確に定めた社内ルールを作成することが不可欠です。ルールを策定したら、従業員への周知も徹底することで、ルールの実効性を高められます。業務や法制度の変化に応じた定期的な見直しも欠かせません。
また、ルール違反があった場合の罰則などをあらかじめ明示すると、コンプライアンス意識の浸透にもつながります。
文書管理のデジタル化の推進
紙の文書を電子化することで、アクセス履歴の記録や改ざん防止が可能になり、証跡管理を効率化できます。デジタル文書ではアクセス権限の設定や保存期間の管理、不要なデータの削除が容易になるため、情報漏洩リスクの低減にも役立ちます。
紙の文書を電子化する際は、画像データから文字を読み取りテキストデータに変換するOCRや、電子化した情報を自動的に仕分けられるツールを活用することで、検索性と管理精度を向上させることも可能です。
ITツールの活用
証跡を効率的に管理するためには、専用のITツールを活用するのも効果的です。ログの収集や一元管理、検索機能を備えたツールを導入することで、監査時の資料提出や日常的なモニタリングが容易になります。
さらに、異常を自動的に検知してレポートを作成する機能のある製品であれば、業務負担を軽減しつつセキュリティ体制の強化にもつながります。
証跡管理ができるツールとしては、IT資産管理ツールやログ管理ツール、ワークフローシステム、文書管理システムなど多様な製品が存在するため、自社の環境に合わせて最適なツールを選定することが重要です。
適切なITツールを活用して証跡管理を効率化しよう
証跡管理は、不正防止や内部統制の強化、監査対応を支える企業にとって欠かせない取り組みです。IT化やテレワークの普及、電子帳簿保存法の改正によって、その重要性はさらに高まっています。
しかし、膨大な証跡を人手で管理するのは簡単ではありません。ミスや漏れのリスクもあるため、効率的に運用できる仕組みや専用のITツールの導入を検討しましょう。
インターコムの「MaLion」はログ収集機能を備えたIT資産管理ツールです。デバイスの操作やファイルへのアクセス、Webアクセスなどのログ情報を収集して必要に応じて操作を制御できます。また、収集したデータをログ管理システム「Logstorage for MaLion」と連携することで一括管理・検索ができます。自社の証跡管理体制の見直しやツール導入を検討している場合は、ぜひお問い合わせください。
