【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第66回 キャッシュレス狂乱時代 2019年4月17日配信

今、皆さんは何枚のクレジットカードやキャッシュカードをお持ちですか?

私の場合、財布には「JAL」や「高島屋」などのクレジットカードが5枚、銀行のキャッシュカードが2枚、それに電子マネーの「au WALLET」と「PASMO」の2枚が入っている。以前はもっと多くのカードを持っていたが、あまり使わないものはセキュリティの観点から断捨離した。

しかし、今こうした現金やクレジットカードで決済する時代が終わりを告げようとしている。

最近、ショッピングやレストラン、コンビニなどへ出掛けると、「PayPay」という決済サービスのステッカーをレジで見かけるようになった。

調べてみると「PayPay」は、スマホの中に残高がチャージされていれば現金と同じように使えるプリペイドタイプのスマホ決済サービス(アプリ)とのこと。お店などに置かれているQRコードをスマホで読み取って支払金額を入力するか、スマホに表示されたバーコードを店員さんに読み取ってもらうことで支払いできるらしい。

東洋経済誌によると、ヤフーとソフトバンクが合弁で展開する「PayPay」は、昨年の末、100億円還元という異例とも思える大キャンペーンを引っ提げてスマホ決済市場に参入した。皆さんも、「100億円あげちゃう」の騒がしいCMを何度もご覧になっているだろう。

支払い時に売上金額の20%を還元し、さらに40回に1回の確率で全額を還元するという大判振る舞いをみせた。そのため、ビックカメラをはじめとする「PayPay」の加盟店に多くの買い物客が殺到。当社の若者達もこのタイミングを狙って家電などの高額商品を買いたいと言っていた。

この100億円はわずか10日間で使い切ったそうだ。2か月後には再び同額のキャンペーンを実施し、ワイドショーなどでも大きく取り上げられた。

「PayPay」が最初のキャンペーンを終了した直後、今度はLINEが「LINE Pay」で期間中ならいつでも20%還元する「Payトク」キャンペーンをスタート。そして今年に入ってからは「PayPay」の第2弾キャンペーンに続けとばかり、今度はNTTドコモが展開する「d払い」で、期間中はポイントを40倍付与するという異例のキャンペーンまでぶち上げた。

各社の相次ぐスマホ決済サービスは息つく間もなくユーザー争奪合戦に突入した。

昔アメリカ映画で観た西部開拓時代、金脈を求め一攫千金を狙って殺到した採掘者達のゴールドラッシュを思い出す。

この凄まじい還元合戦の影響で、ビックカメラでは12月の月次売上が20%以上も上昇し、まさに漁夫の利を得る結果になった。一方で、スマホ決済側の「PayPay」は当然赤字。LINEも19年12月期は200億円の営業赤字を計上、今年2月に「メルペイ」を投入したメルカリも重要戦略としてスマホ決済ビジネスの育成に巨額の資金を先行投資する結果となった。

なぜ赤字覚悟でも各社がこうした過激な競争にのめり込んでいくのか、その真相を読み解いてみると、やはり背景にあるのはビッグデータの獲得である。

データの再利用がビジネスの成功を左右する現在において、スマホに取り込まれたリアルなユーザー消費行動や閲覧情報は、後々のビジネス利活用などで喉から手が出るほど欲しい宝の山なのである。

ご存知のように、今我々が広く利用しているAmazonやYahoo!でも商品購入後に様々な告知や商品案内のメールが届く。こうしたサービスは、個人の行動や購買履歴データを基にした「行動ターゲティング広告」として知られている。

例えば、1度訪問したWebサイトの広告が他のサイトに追いかけて表示されるリターゲティング広告、購入履歴を基に薦められるレコメンデーション広告、位置情報を基にしたジオターゲティング広告など。今ではビッグデータさえあれば高度なAI技術を駆使して顧客の購買意欲を何度でも掻き立てることができるのである。

一足先にキャッシュレス時代に突入している中国では、購買データを基にしたスコアリング(格付け)と呼ばれる個人向けの信用評価も一般化している。

例えば、スコアが一定水準を超えた消費者に対しては、ローンにクレジットを付与したり、保証金や預り金などを不要にしたりと、様々な優遇サービスを提供する。日本のLINEやYahoo!もすでにこのスコアリングを応用したビジネスへの参入を表明した。

最近では、我が日本政府もキャシュレスサービス各社と協業し、来るべきキャッシュレス時代に向けたインフラ作りを始めている。今年の10月、消費税が10%に引き上げられるタイミングで、増税に伴う景気の落ち込みを防ぐため、キャッシュレス決済をしたユーザーを対象に2%~5%のポイント還元をやるというのである。

これにはスマホ決済各社ももろ手を挙げて大賛成。また来年に控えたオリンピック・パラリンピック2020や2025年の大阪・関西万博へ大量に押し寄せてくる海外からの来訪者に向けインバウンド効果を最大限に活かすため、各社のキャッシュレス化を強力にバックアップする計画だ。

そして政府の最終目標は、ポイント還元を活用したマイナンバーカードの普及である。まさに「一粒で四度もおいしい」なのだ。(1)消費税増税による経済の落ち込み防止 (2)キャッシュレス化の定着 (3)マイナンバーカードの普及(4)ビッグデータの構築 である。

しかし、このポイント還元のお金の出所は一体どこなのだろうか? まさか、我々の税金がそのまま源泉になるということはないと思うが……。

私は、まだスマホ決済をそれほど急ぐ必要はないと思っている。今のクレジットカードやキャッシュカード、それに少しの現金があれば、どこでもストレスなくショッピングやレストランに行ける。たいして買い物もしないし、大きなポイント還元も不要である。小銭や財布を持ち歩いても何ら不自由は感じない。

我々日本人はまだキャッシュレス時代を経験していないので、何が起こるのかわからない。今のキャッシュレスの狂乱が収まり、そして何よりもスマホ決済が本当に安全な手段なのかわかるまで様子を見ることに決めている。昨年9月、あのFacebookのビッグデータから5000万人ものユーザー情報が流出したほどである。

「便利なものには裏がある」のである。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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